不眠症

不眠症とは

睡眠は脳の休息のために欠かせないものです。その時間が短くなったり、質の悪いものになり、疲労感がとれず日常生活に苦痛や支障を来す状態が週3回以上あり、その状態が1ヶ月以上続く場合を不眠症と呼び、治療の対象になります。

不眠症を来す原因や病態はいくつかあり、詳しくは「不眠症の原因」の項で説明しましょう。 ちなみに不眠症で悩む方が睡眠障害の大半を占めますが、それ以外に眠り過ぎてしまう過眠症、通常の睡眠と覚醒の日内リズムがずれて生活に支障を来す概日リズム睡眠障害など、睡眠にまつわる障害はいくつかあります。

不眠症チェック

❶寝付きはよいですか?:布団に入ってから眠りにつくまでに30分以上かかる状態を入眠障害といいます。

❷夜中に何度か目が覚めたり、朝早い時間に目が覚めますか?:寝付いても夜中に目が覚めてしまう状態を中途覚醒、朝予定より早く目が覚めてしまう状態を中途覚醒といいます。

❸よく寝たという充実感がありますか?:時間的には長く眠ったはずなのに、「よく眠った。疲れがとれた」という実感のない状態を熟眠障害といいます。これは脳が眠るノンレム睡眠、あるいはそのうちの深い段階での睡眠の割合が少ない場合に生じます。

❹睡眠以外の体調や精神状態で困った症状はありませんか?:不眠症で悩む方の多くは、その基礎に神経症やうつ病などの心の病を抱えています。その場合、単に眠れればよいということではなく、むしろ不眠症を警告信号としてとらえ、その基礎の病の診断と治療を精神科の専門家と相談することが大切です。

不眠症の原因

不眠症の原因や病態は一つではありません。大まかにまとめると以下のようになります。

❶他の心の病に付随する不眠症

うつ病、神経症、精神病など、様々な心の病で不眠症が認められます。うつ病性の不眠の特徴は、入眠障害以上に中途覚醒や早朝覚醒が目立つことです。神経症性の不眠が入眠障害を主とすることとは対照的です。いずれにしても不眠は病の部分的な症状なので、基となる病の診断と治療が欠かせません。

❷身体の病状に付随する不眠症

身体の病気の様々な症状、例えば疼痛、かゆみ、発熱といった苦痛な体調のため睡眠が妨げられることがあります。その場合は中途覚醒や熟眠障害が主になります。また睡眠中に気道が塞がったり、呼吸中枢の機能不全のために一時的に呼吸が止まる睡眠時無呼吸症の場合も、頻繁に睡眠が中断されることになります。

❸環境に起因する不眠

睡眠は音や明るさ、温度や湿度、寝具の寝心地などの睡眠環境に左右されることがあります。

❹原発性不眠症

❶〜❸のいずれにも当てはまらず、不眠とそれによる苦痛や生活上の支障だけが1ヶ月以上継続するものです。一部には脳波の乱れが関係した体質的な不眠症もありますが、それ以外のほとんどは、緊張や不安を呼ぶ現実的な心配事を悩むあまり眠れなくなってしまうような状態です(これは特に精神生理性不眠症とも呼びます)。その多くの場合はその心配事が解消すれば改善しますが、「また眠れないのではないか」など睡眠への過度なこだわりや不安が残ると、不眠だけが遷延してしまうこともあります。

不眠症の治療

不眠症の原因により治療法も変わりますが、共通することは、改善可能な原因は改善するということです。不眠を招く基にある心の病気、身体的病状、不適切な睡眠環境、心配事の治療や改善に取り組むことは必要不可欠です。

但しそのように取り組んでもすぐに改善できない場合があります。たとえばうつ病性の不眠の場合、うつ病の治療を始めたからといって病状の改善には数週から数ヶ月を要します。あるいは車や飛行機の騒音で眠れないからといって、多くの場合すぐに転居するわけにいきません。

そのような場合は、精神科医と相談しながら、一定期間睡眠を助ける薬(睡眠導入剤など)を服用することも必要です。最近は眠気の持ち越しなどの副作用が少なく、依存の生じにくい薬が利用できます。

薬物療法と並行して、生活上の工夫も大切です。人間の睡眠と覚醒のリズムは、いわゆる「体内時計」によってセットされており、これを最適に活かす工夫が役立ちます。

  1. 就床時間と起床時間はできるだけ一定にしましょう。
  2. 昼寝は午後3時より以前に、30分以内でとるようにしましょう。
  3. 遅い時間の長過ぎる昼寝は、脳の睡眠欲求を減らし、夜の本格的睡眠を妨げかねません。したがって昼寝をする場合は、横にならず居眠りが適しています。
  4. 体内時計を正確に保つためには、昼間十分な光を浴びることが有効です。散歩や家の中での日光浴を活用しましょう。
  5. 昼間から夕方までの心地よい運動は、脳のリラクセーションに役立ち、心地よい眠りを誘います。
  6. しかし就床前数時間の激しい運動や頭脳労働は、かえって脳を興奮させ不眠を招きます。その数時間は脳をクールダウンさせるつもりでのんびり、心地よい過ごし方を工夫しましょう。
  7. カフェインを多く含むコーヒー、紅茶などは覚醒作用があるので、夕方以降は避ける方がよいでしょう。いっぽう、就床前に温かい飲み物を少しお腹に入れると副交感神経系が優位になり、心身ともに休息モードになるので眠りやすくなります。
  8. 必要な睡眠時間は人により、あるいは状況により異なります。短時間でも深い眠りによって脳の疲労が十分とれる人もいますし、寝不足が数日続いても、その後の十分深い睡眠によって一気に解消できるところもあります。ですから毎日の完璧な睡眠にこだわらないことも、かえって入眠を助けます。