心身症

心身症とは

人間の心と身体は、お互い深くつながり、影響を及ぼし合っています。その代表的な病態が心身症です。

では心身症とはどのようなものでしょうか。日本心身医学会はそれを次のように定義しています。

「身体疾患の中で、その発症や経過に心理社会的な因子が密接に関与し、器質的ないし機能的障害が認められる病態をいう。ただし、神経症やうつ病など、他の精神障害に伴う身体症状は除外する」。

つまり身体の症状や障害があり、一般的には身体の病気だと思われるものの中で、原因として、あるいは悪化させる要因として、感情や性格などの心理的要素や、職場や家庭環境などの社会的要素が大きく関係しているものを心身症と呼んでいます。

ですから心身症はあらゆる臓器に現れる可能性があり、そうなるとまずは症状や障害の現れた器官を診療する科を受診することが多いと思います。

ところがそれぞれの科で身体的治療が行われても、なかなか良くなりません。原因や主な要因が、身体ではなく心や環境の方にあるのですから、それは当然のことです。

身体に不具合が表れていても、原因が心の方にあるのであれば、診断と治療は当然心に向けても行われなければならないのです。

よくみられる心身症

それぞれの器官にそれぞれの心身症がありますが、ここでは比較的よくみられる心身症をあげ、簡単に説明しておきましょう。

A.循環器心身症

❶高血圧症:高血圧はもともとの体質が関係していることが多く、そこに塩分やカロリー摂取、肥満といった生活習慣、あるいは腎臓機能やある種のホルモンの異常などさまざまな要因が関係して生じます。その要因の一つとして心理的ストレスが関係しますが、中にはその影響の非常に大きな方もいます。典型的なものに白衣高血圧があります。家庭では正常血圧なのに、受診して医師や看護士が血圧を測ると異常に高くなるという方で、これは明らかに不安や緊張といった心理的要因が関係しています。

❷心臓神経症:これは急に胸に締め付けるような痛みや動悸が生じるものの、検査上異常が認められない場合につけられる病名です。身内や知人に、狭心症や心筋梗塞をわずらったり、あるいは不幸にしてそれで命を落とした方がいて、自分にも同じような病気が起るのではないかという、心臓への過剰な意識やそれに伴う不安、あるいはその方へのさまざまな思いが、実際に胸痛や動悸を呼ぶことがあります。

B.呼吸器心身症

❶過喚起症候群:俗に過呼吸とも呼ばれます。呼吸器に異常がないにも関わらず、急な息苦しさ、空気(酸素)が足りない感じが生じるため、呼吸が速く荒くなります。つまり必要以上に換気(呼吸)を繰り返してしまい、結果として身体の中からどんどん二酸化炭素が出て行ってしまいます。二酸化炭素は血液の酸性・アルカリ性のバランスをとるために必要なものなので、それが不足して血液はアルカリ性に傾き、その結果手足や顔面のしびれ、ぼーっとして目の前が暗くなり意識が遠のく感じ、手足の硬直、そして強い不安感などが襲ってきます。

❷気管支喘息:これは基本的には気管支にアレルギー反応が生じて、粘膜が厚くなったり、粘稠な粘液が分泌されたり、あるいは気管支が収縮したりすることにより、肺の空気の出入り(特に呼気)が困難になる病気です。体質や感染、あるいは免疫反応が重要な役割を果たしますが、一部には心理的要因が発作を誘発したり悪化を招く場合があります。たとえばバラアレルギーの方が、上手くできた造花のバラを見ただけで、発作が誘発されることがあるのです。

C.消化器心身症

❶過敏性腸症候群:腸には炎症も潰瘍もないのに、頻繁に腹痛や下痢が生じたり、便秘と下痢を交互に繰り返したりする腸の機能的な病気です。特に電車に乗る、登校や出勤するなど緊張する状況でよく症状が出るため、引きこもりがちになることもあります。日本人にはこの傾向を持つ人が多いと言われています。

❷神経性嘔吐症:胃や食道に異常はないのに、吐き気や嘔吐が、しばしば食欲低下を伴って生じる胃の機能的な病気です。外出先で症状が出るのではと不安で、引きこもりがちになることもあります。

❸摂食障害:やせ願望があり、極端なダイエットや過剰な運動などにより病的に痩せてしまったり、あるいはたくさん食べて吐いてしまったりする病気です。中高生から大学生などの若い女性に圧倒的に多く見られます。