☞「心の丸窓」は心の杜の医師・心理師による心の診療に関するコラムです。
コロナ禍では多くの職場でオンライン環境の整備が進み、従来の働き方から少なからず変化を求められています。しかしながら、安定して働くために、私たち個人に求められる要件(能力)が変わったわけではありません。職種や障害の有無によらず働く上で必要とされる基礎的な要件(能力)は、「職業準備性」と呼ばれます。今回は「職業準備性」についてご紹介します。
職業準備性では、「健康管理」「日常生活管理」「対人スキル」「基本的労働習慣」「職業適性」の5つに分類されます。「健康管理」を土台とし、日常生活、社会生活、職業生活と積み上がるため、項目の順序が大きく入れ変わることはありません。それでは各項目について簡単にご説明します。
1.「健康管理」は自己管理の中でも基本的なものです。体調の管理、食事や栄養、心身の不調に対処することなどが含まれます。心身のストレスを減らし、解消する対処方法を身につけるには、体調を崩しやすいご自身のパターン、ストレスを知ることが大切です。
2.「日常生活管理」は「生活する体力」のことです。起床・食事・睡眠などの生活リズム、入浴・掃除・洗濯などにより清潔を保ち、身だしなみを整えること、収入に見合った生活設計を考えながら金銭管理できること、交通機関の適切な利用、社会規範を遵守しながら日々の生活を営めることなどが含まれます。家族と同居している人も、将来の自立を考えるなら、日頃から意識しつつ習慣づけていくことが大切でしょう。
3.「対人スキル」には、毎日の挨拶、言葉遣い、電話の応対、会話など、職場の上司や同僚、部下、顧客との言語的、非言語的なコミュニケーション能力、社会性・協調性などが含まれます。コミュニケーションというと世間話、休憩時間の雑談などを思い浮かべる人も多いですが、就労場面では相手の立場を理解し、状況に合わせた行動や、相手と協力し合って仕事を達成することが求められます。感情を適切にコントロールし、指導や注意を受け入れる、必要な場合には謝罪する、苦手な相手でも適度な社会性を保ちながら対応することが必要です。
4.「基本的労働習慣」とは、毎日出勤して働く(働く体力)、ビジネスマナーが身についているといった就労意欲、職場での行動・勤務態度のことです。仕事の理由・目的を理解し、プレッシャーのかかる仕事でも休まずに最後までやり通す責任感や積極性、勤務中の集中力、適切な報告・連絡・相談(質問)、敬語の使用などが含まれます。
5.「職業適性」とは、職務遂行に必要な知識・技能のことです。業務に関する指示や作業手順の記憶・理解・遵守、正確性、作業速度、作業能率の向上などが含まれます。働き続けるためには、新しい業務や上司の交代、部署異動などの変化にも柔軟に対応できる能力、就労する中で新たに技術や資格を身につけ、成長を目指すといった職業能力の開発が求められます。
働く上で必要な要件(能力)といっても絶対的な基準はなく、個人の経験や特性、職場環境によって、どこが不十分で見直しが必要かは異なります。できている部分を確認しながら、振り返ってみてはどうでしょうか。
職業準備性を高めるにはご自身での取り組みが欠かせませんが、職業準備性は職場環境との相互関係の中で考える必要があります。就職や転職、部署異動などにより新たな環境で実際に働き始めると、新しい業務や物理的環境、人間関係に慣れるまで、不安や緊張、焦り、疲れを感じやすく、しばらく続くこともあります。疲れているときは仕事やご自身の健康に影響が及ばないよう、しっかり休養を取りましょう。それでも仕事に行き詰まり、努力しても成果が得られずに不調を感じたら、早めに職場で相談し、適切なサポートを受けることも必要です。職場との相談(環境調整)については次の機会にお話しできればと思います。
※職業準備性は「就労準備性」と表記される場合もあります。
(G)