☞「心の丸窓」は心の杜の医師・心理師による心の診療に関するコラムです。
花粉症の季節です。くしゃみや鼻水、眼や喉の痒みに苦しんでいる方も多いでしょう。このような症状は花粉が直接引き起こすというよりも、人体にとって異物である花粉に対して免疫系が起こす反応だという事実はよく知られています。免疫系は独自の細胞が働いて自己防御機能を発揮しますが、考えてみると、自己を守る免疫系のために症状が出て苦しい思いをするというのもおかしな話です。でも、免疫系の働き過ぎによって引き起こされる病気というのは、決して珍しくはないようです。
ここで視点をメンタル面に移してみます。人は皆、自分に合ったやり方で周囲の環境に馴染む努力をしています。何でも一人でこなす人がいるかと思えば、逆に、困ったら周囲に頼る人も居ます。自分の意見を出すより和を重んじる人もいれば、人とは一定の距離を置いて安定を保つ人もいます。それぞれの性格とも言えるし、環境のストレスに対する心の自己防御機能とも適応戦略とも言えます。それで大体は元気に生活できますが、環境が変化してストレスが強まると問題が生じることがあります。とてもこなし切れない仕事量を一人で抱え込んだり、逆に頼れる人が居ない状況でも自分で動けなかったり、周囲に合わせ続けて板挟みになったり、頑なに周囲から心を閉ざしてしまったりと、適応戦略が裏目に出てしまうこともあるのです。また、やたらと周囲とぶつかったり、目前の問題から目を逸らすなど、普段使わない不適切な戦略で対処してしまうこともあります。いずれにしても、自己防御の戦略が、不適応な方向に導く結果となります。これらを振り返って軌道修正ができればよいのですが、環境ストレスが強まっている状況ではそれも難しく、やがてメンタルな不調に繋がることもあるでしょう。それはうつや心身症、神経症をはじめ現れ方は人それぞれですが、心の防御メカニズムを不適切に働かせ過ぎた結果の不調という点では共通していると言えます。ですから、治療では症状への対処とともに、再発予防と今後の生活を生き易くするに、心の防御機能について振り返る必要も出て来ます。そのプロセスも適切なあり方がさまざまなのは心の治療の独特なところでしょうか。
免疫という自己防御機能が過剰となる花粉症真っ盛りのこの季節は、職場や学校などでの変化が多く、心の自己防御機能がバランスを崩しやすい季節でもあります。不調を感じたら、早めにご相談なさってください。
( 鰯 記 )