☞「心の丸窓」は心の杜の医師・心理師による心の診療に関するコラムです。
心に傷を負うことは痛みを伴うため、私たちは通常できるだけ避けようとします。今回私は、心の傷とパーソナリティの成長との関係を書いてみます。
もちろん私は、例えば親が子供の成長を促すために子供の心を傷つけるべきだ、というようなことを言っているのではありません。もし親が自分の子供を故意に傷つけようとするのであれば、それは虐待です。しかし時に親は、子供の要求や期待に応えることに失敗します。これらの失敗は子供の心を深刻に傷つけるかもしれません。そしてその傷は子供のパーソナリティに「トラウマ」という深刻なダメージを残すかもしれません。子供はいらだち、怒り、落胆し、あるいは絶望するなど様々に反応するでしょう。しかしそのような瞬間は子供にとって対処できない現実に直面する機会でもあるのです。
子供がこういった状況に対処する方法は大きく分けて二通りあります。受け入れる事と回避する事です。回避は否認すること(意識的、無意識的に認めないで否定すること)を含みます。例えば子供は、親の失敗という現実を見ずに、親が自分を嫌っているからわざと嫌がらせしたのだ、と考えるかも知れません。あるいは、それは親の失敗ではなくて自分が悪いからだ、と考えるかも知れません。この種の理解によって、子供は両親像を理想化されたままにしておくことができるかも知れませんが、現実を見て受け入れることを回避します。もしも子供が現実を受け入れることができれば、それは人格の成長を意味します。それはもっと良く世界の現実を見ることができるようになるということを意味しているのです。
この時には、子供の傷を癒すための支える環境も重要になります。これは例えば、子供の痛みや傷つきに共感し、暖かく見守る親だったり、その他の大人だったりします。
このようにパーソナリティの成長は真に心が傷ついた経験によってのみ達成されるのです。
(具眼 記)