心の丸窓(32)
PTSD

☞「心の丸窓」は心の杜の医師・心理師による心の診療に関するコラムです。

この文章は前回のコラムの日本語訳です。

東京に住んでいる限り、我々は3月になると過去の外傷的な出来事を思い出さずにいられません。例えば、地下鉄サリン事件(1995年3月20日)や東日本大震災(2011年3月11日)などです。今回は少しトラウマ(心的外傷)とPTSD(心的外傷後ストレス障害)について書いてみることにします。

PTSDはベトナム戦争後の退役軍人の研究によってよく知られるようになりました。自分や別の人物が実際に、または危うく死ぬ、重傷を負う、身体的同一性への脅威に曝されるなどというような外傷的なできごとの後に発症します。たとえば、戦争やテロ、自然災害、身体的、精神的、または性的な暴力、深刻な事故などです。PTSDの患者は過覚醒、茫然自失、再体験、回避を含む症状を呈します。再体験は繰り返されるフラッシュバックや外傷的な場面を夢に見ることなどを含みます。回避は、トラウマを思い出す、または思い出すかもしれない状況を避けることです。いくつもの研究が、SSRI(セロトニン選択的再取り込み阻害薬)やその他の抗うつ薬を使った薬物療法、CBT(認知行動療法)、EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)がPTSDに効果があるという証拠を示しています。

しかし、二つの状況が「通常の」PTSDとは区別される必要があります。複雑トラウマと発達トラウマです。複雑トラウマは慢性的で繰り返されるトラウマの結果です。例えば監禁される、または外傷的な体験に閉じ込められるような場合があげられます。発達トラウマは、心と脳の発達に広範な影響を与える幼少期の慢性的に繰り返されたトラウマを反映します。

フロイトはトラウマを、心を囲む防護壁に空いた穴だと表現しました。これにより感情の洪水が起きて圧倒されてしまうことから心を守る、通常の判断過程が失われてしまいます。そして第二段階に進むと、恐怖、虞(おそれ)、迫害感、自分がバラバラになってしまいそうな気持ちを含む強い不安を感じ、絶望感を感じるかもしれません。私個人的には、こういった患者に対して、薬物を処方したり、定型的な精神療法を行ったりするだけでは不十分だと考えています。

 

(具眼 記)

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