心の丸窓(19)
ストレス・コーピングと精神療法(カウンセリング):中編

☞「心の丸窓」は心の杜の医師・心理師による心の診療に関するコラムです。

今回は当初、このテーマの後編として精神療法(カウンセリング)のことを書くつもりでしたが、予定を変更して中編を設け、ストレスをめぐる別のテーマについてお話ししたいと思います。それはこの間に世界を驚かすビッグニュースが飛び込んで来たことと関係があります。

2014年1月30日付の新聞の一面は、若い日本人女性研究者(小保方晴子さん)が、新たな万能細胞(STAP細胞)の作成に成功したという画期的ニュースを報じていました。STAP細胞は、ノーベル医学生理学賞を受賞した山中伸弥教授らによるiPS細胞と呼ばれる万能細胞とは全く別の発想によるものです。彼女はいったん分化した身体の細胞を弱酸性の液体で刺激するだけで、受精卵同様に身体のさまざまな組織細胞に分化しうる万能細胞に戻す(初期化する)ことができることを発見したというのです。生命科学の常識を覆すこの方法の基本原理は、あきれるほど単純で、分化した細胞を一定のストレッサーに曝すとそれが万能細胞に戻るというものです。平たく言えば、ストレッサーに曝すと細胞が振り出しまで若返ると言ってもよいでしょう。細い管を通過させたり、毒物を与えたり、熱を加えたり、飢餓状態に曝したりといったさまざまなストレッサーが試される中で、弱酸性の液体によるストレスが最も効率的に細胞を初期化することが突き止められました。

このニュースに希望に満ちた驚きを感じながら、私はストレスと人の健康状態との関係についてのある研究結果を思い出していました。それはストレス度が高まると健康状態が悪化する人たち(A群)がいる一方で、逆にストレス度が高まると健康状態が増進する人たち(B群)がいるという興味深い研究です。両群の人々の間にはどのような違いがあるのでしょう。さらに研究を進めていくと次のようなことが分かってきました。自己評価が低く周囲からのサポートが乏しい人々は、ストレス度が高まる程健康状態が悪化し(A群)、逆に自己評価が高く周囲からのサポートが十分得られている人々は、ストレス度が高まる程健康状態が増進する(B群)のです。このことは私たちに2つのことを教えてくれます。1つは、ストレスは必ずしも有害とは言えないということです。そしてもう1つは、ストレスによって健康を害するのではなく、むしろ健康増進に役立てるために私たちにできることは、自己評価を高めていくこと、そして周囲の人たちからのサポートを有効に活用してくことだということです。もちろんいずれも簡単なことではありませんが、この研究はストレスコーピングにおける一つの方向性を示してくれていると言えるでしょう。

さて次回こそ、ストレスコーピングの本格的取り組みとしての精神療法(カウンセリング)についてお話ししたいと思います。

(カラマツ林の梟 記)

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