☞「心の丸窓」は心の杜の医師・心理師による心の診療に関するコラムです。
「対人恐怖(症)」、「あがり症」と呼ばれている病気があります。例えば、他人と同席して喋るような場面で、相手に嫌がられたり不快に思われるのではないか、相手からばかにされるのではないかという不当に強い不安や緊張感が生じるために、対人関係を避けようとする病気です。この「対人恐怖(症)」、「あがり症」という呼び方は日本古来のものであり、最近ではほぼ同じ状態を意味する社会恐怖(世界保健機構による病名)、社交不安障害(米国精神医学会による病名)という名称で呼ばれることが増えてきています。
もちろん、大勢の人を前に演説をするなど、ほとんどの人が緊張すると考えられる場面で緊張するのは当然で、それだけでこの病気と呼ぶことはできません。しかし、ほとんどの人が緊張しないような社会的状況で緊張して、それゆえにそのような状況を避けてしまうとなると、この病気を疑ってみることも必要だと思います。この病気の患者さんの5%以下しか治療を受けていないというデータもあり、患者さん本人にも周囲の人々にもあまり理解されていない病気の一つだと言えるでしょう。しかしながら患者さんたちが感じている苦痛はとても強く、日常生活や職業・学業など社会機能に重大な支障をきたしうるものであると考えます。
この病気には、うつ病の薬の一部や精神療法が効果があります。ただし、他の病気の1つの症状として対人恐怖やあがり症が現れることもありますので、治療のためには、病気の診断を適切に行い、患者さんの重症度にあった治療法を選択するために専門家への相談が必要と考えます。
(湖底の月 記)