心の丸窓(7)
うつ病と薬

☞「心の丸窓」は心の杜の医師・心理師による心の診療に関するコラムです。

うつ病の成因や病状の程度は患者さんごとに異なります。したがって、治療はいわゆるオーダーメイドで考案されねばなりませんが、基本的には次の4つ、すなわち負担の軽減や休養、薬による治療、環境調整、精神療法が適宜組み合わされる必要があります。今回はこの中で薬による治療についてふれてみたいと思います。

うつ病を患う多くの方に抗うつ剤などの薬が有効です。ところが服薬をお勧めしてもためらわれる方もおられます。いくつかの理由があるようです。たとえば副作用が怖いというのはその筆頭でしょう。もっともな理由です。しかし多くの場合、どのような副作用がどれくらいの頻度で現れ、その場合どう対処しうるのかということまでは、必ずしもよく知られていません。そこで副作用の内容や、もしそれらが現れた場合にはどう対処するかということを説明しご相談する中で、それまで漠然と膨らんでいた不安が整理され、納得されて服薬を始められることがほとんどです。こちらとしてもホッとします。それによって回復のスピードが大きく異なることが多いからです。

一方「服薬を始めると一生止められないと聞いたから」とおっしゃる方も少なくありません。心情的にはそのご心配もよく分かるものです。しかしそこには誤解の潜んでいることがあります。つまり薬を飲み始めたことが「原因」で、一生止められないという「結果」になるという誤解です。そこには「飲み始めると依存してしまう」という不安が絡んでいるのですが、それはやはり誤解なのです。確かにうつ病の薬物療法は月単位、場合によっては年単位で継続する必要があります。しかしそれはこの病気が風邪や食中毒のような急性疾患ではなく、体質やおかれた環境、そしてその方の生き方や性格などを基盤とした慢性疾患ゆえのことなのです。

うつ病の薬物療法では、標準的にはできるだけ少量かつ少ない種類の薬で開始し、他の治療と組み合わせながら改善を図ります。そして病前の状態まで回復したら、そこから半年程度服薬を維持し、その後ぶりかえしのないことを確認しながら徐々に減薬を進めていきます。すっかり改善して治療を終えられる方も多いのですが、その方のうつ病の成因によっては、少量の服薬を継続する方がよりお元気に生活を送ることができる場合もあります。ただし、よくご説明し話し合った末に、それでも服薬したくないという方に対しては、特別な場合を除き、その意思を尊重することが医師としてのわきまえなのだと心得ています。

(湖底の月 記)