☞「心の丸窓」は心の杜の医師・心理師による心の診療に関するコラムです。
うつ病の方を励ますことは控えましょうという理解は、近頃比較的共有されてきたように思います。「励ます」というのは、辞書によれば「気力をはげしくさせる」、あるいは「努めさせ、精を出させる」とあり、その意味ではうつ病の方を励ますことはタブーと言ってもよいでしょう。
うつ病を患っている方というのは、体質的あるいは心理的な理由で、考えることも行動することも、さらには喜びや感動を味わうこともすべて抑え込まれ、話すことや笑うことさえ億劫になっています。そしてそういう自分を不甲斐なく何の価値もない存在のように思い、責め、その辛く絶望的な状態が果てしなく続くように感じているのです。そういう方に、「何もしないから元気が出ないのよ」、「暗い顔をしているから気分がふさぐのよ。明るく笑顔で」と励ますことは、自責の念や孤立感、そして絶望感をいっそう深めさせることになります。
うつ病は十分な休養と適切な治療によって改善しうる病気ですから、辛さに心を寄り添わせてそれを受けとめ、今は何もできなくてよいのだと認めてあげることは、望まれる対応の基本です。また、その状態からは必ず抜け出られることを伝えて失われかけた希望の灯をともし、十分な休養を保証してあげられたなら、回復には欠かせない一定の安堵感をもたらすことでしょう。そして求めがあれば話を聞き、ともに悩み考え、できる手助けはいつでもする用意のあることを伝え、けっして自分が一人ではなく、支えながら回復を待ってくれる人たちが自分には確かにいるのだと実感できるように接することができれば、それらは良い意味での力強い励ましになるに違いありません。
(カラマツ林の梟 記)